2026年6月9日——
Life Biosciencesは、開放隅角緑内障および非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)を含む視神経症を対象に開発中の、AAV2ベースの遺伝子治療薬候補「ER-100」について、第1相臨床試験で最初の被験者への投与を開始したと発表した。
ER-100は、Life Bioの「Epigenetic Restoration(エピジェネティック・リストレーション)」プラットフォームから生まれた初の臨床候補である。同プラットフォームは、加齢に伴って変化したエピジェネティックなパターンをリセットすることで、細胞機能の回復を目指すものだ。この治療法では、AAV2ベクターを用いて、OCT4、SOX2、KLF4という3つの転写因子(総称してOSK)を制御下で発現させる。これにより、細胞の本来の性質や機能を維持しながら、遺伝子発現パターンをより若い状態へ近づけることを狙っている。
第1相試験では、ER-100の安全性および忍容性の評価を主目的とし、あわせて視機能に関する評価項目も設定されている。このAAV2治療は、目と脳をつなぐ神経細胞であり、視神経症で障害される網膜神経節細胞を標的とする設計になっている。網膜神経節細胞は自然には再生しないため、損傷を受けると恒久的な視力低下につながる可能性がある。
開放隅角緑内障は慢性の神経変性眼疾患であり、高齢者の失明原因の一つとして知られている。既存の治療は主に眼圧を下げることを目的としているが、治療を受けていても病状が進行する患者は少なくない。NAIONは50歳以上の成人で最も多くみられる急性視神経症で、現在のところ承認された治療法はない。
Life Bioのアプローチは、「部分的細胞リプログラミング」という考え方に基づいている。これは山中因子の一部を用い、細胞を幹細胞のような状態まで完全に戻すことなく、若い細胞にみられる機能の一部を回復させる手法である。David Sinclair氏らによる以前の前臨床研究では、OSKの発現によって、加齢マウスおよび緑内障モデルマウスにおいて視神経再生と視機能の回復が促されることが示されている。
ER-100の重要な特徴の一つは、発現を制御できるシステムを備えている点だ。同社によると、AAV2で送達されるこの治療法は、ドキシサイクリンによってOSKの発現をオンにできるよう設計されており、遺伝子活性を調節し、過剰発現のリスクを抑えるための追加的な安全機構として機能することが期待されている。
今回のヒト初回投与は、AAVを用いた眼科領域の遺伝子治療にとっても、細胞若返り医療という新興分野にとっても重要な節目となる。とはいえ、このプログラムはまだ初期段階にあり、安全性の確認が大きな焦点となる。ER-100は、AAVによるエピジェネティック・リストレーションを、加齢関連疾患に対する疾患修飾療法としてヒトに応用できるかを検証する、最初期の臨床的試みの一つである。
Life BiosciencesはER-100に加え、同社のEpigenetic Restorationプラットフォームを複数の臓器や加齢関連疾患へ応用する開発も進めている。現時点では、全身の若返りではなく、加齢に伴う特定の疾患の治療に重点を置いている。
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