Ⅰ.ウイルスそのものに関する要因
1. 力価(Titer)が低い
最も一般的な原因。実際の機能的力価が低い場合、MOI が十分に確保できず感染効率が低下する。
特に AAV2 などは機能力価が低くなりやすい。
2. 空カプシド(Empty Capsid)が多い
製造過程で空カプシド比率が高いと、有効なウイルス粒子数が減少し、感染効率が大きく低下する。
3. 血清型と標的細胞/組織のミスマッチ
AAV血清型は組織指向性が異なる。例:
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AAV9:心臓・筋肉・中枢神経
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AAV8:肝臓
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AAV-PHP.eB:マウスのCNS(他種では低効率)
適切でない血清型を選ぶと感染効率が大幅に低下する。
4. 遺伝子サイズが大きすぎる(上限超過)
AAVのパッケージング上限は 約4.7 kb。
サイズ超過は以下を引き起こす:
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機能力価の低下
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不完全なゲノム
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感染効率の著しい低下
5. プラスミド構築上の問題
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ITR切断
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配列の重複
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GC含量異常
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標的細胞に適さないプロモーター(例:CMV が一部細胞で弱い)
Ⅱ.標的細胞/動物モデルに関する要因
1. 細胞表面受容体の発現不足
AAVは特定受容体に依存する:
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AAV2:HSPG
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AAV9:ガラクトース
受容体が少ない → 感染しにくい。
2. 分裂速度の速い細胞
AAVは 分裂細胞で効率が低下(エピソームとして存在し、細胞分裂で希釈される)。
3. 原代細胞・免疫細胞・幹細胞は感染しにくい
これらは AAV 感受性が低いことが多い。
4. 種差
例:PHP.eB はマウスでは高効率だが、ラット/霊長類/ヒトでは低効率。
Ⅲ.操作・実験手技に関する要因
1. 凍結融解の繰り返し
1回の凍結融解で 30〜50% 感染能力が低下する。
2. 保存条件の不備
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−80°C で保存していない
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PBS など不適切なバッファー
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ピペッティングの繰り返しによるウイルス剪断
3. ウイルス添加方法が不適切
例:
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スピン感染(spin infection)を行っていない
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細胞密度が不適切
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ウイルス量が少なすぎる/多すぎる(過量も阻害要因)
Ⅳ.動物実験特有の要因
1. 投与経路が不適切
例:
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CNS を狙うのに尾静脈投与 → 低効率
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筋肉を狙うのに腹腔内投与 → ほぼ発現なし
2. 免疫反応によるウイルス除去
動物が自然抗AAV抗体を持つ場合、ウイルスが中和され感染効率が低下。
3. 血液による希釈・クリアランス
尾静脈投与後、AAV が血液で希釈・除去され、標的組織の発現が弱くなる。
Ⅴ.発現カセットに関する要因
1. プロモーターの選択ミス
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弱いプロモーター(例:hSyn が非神経組織で弱い)
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組織特異的プロモーターによる発現範囲の狭さ
2. 宿主による外来遺伝子の抑制
一部細胞では表現型抑制(エピジェネティックサイレンシング)が起こる。
◆ 迅速なトラブルシューティング(実用版)
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力価確認(最低 1E12–1E13 vg/mL)
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標的に合った血清型を再選択
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強力なプロモーター(CAG / EF1α など)に変更
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挿入遺伝子サイズの確認(4.7kb 以下)
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凍結融解は 1回まで
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事前に細胞のAAV感受性を確認
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spin infection や MOI 増加を検討
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動物の投与経路が適切か再評価
PackGeneについて
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