AAV(アデノ随伴ウイルス:Adeno-Associated Virus)は、比較的安定性の高いウイルスベクターです。適切な条件で保存すれば長期間使用できますが、同じAAVサンプルを何度も凍結・融解すると、ウイルス粒子の安定性やその後の実験結果に影響する可能性があります。
ただし、「凍結融解を1回行うたびにAAVの力価が一定の割合で低下する」とは限りません。 凍結融解による影響は、AAVの血清型、ウイルス濃度、バッファー組成、安定化剤、保存条件、凍結・融解方法などによって異なります。
そのため、AAVの凍結融解による影響を評価する場合は、vg/mLなどのゲノム力価だけを見るのではなく、ウイルス粒子の状態や機能的活性も含めて総合的に判断することが重要です。
AAVを繰り返し凍結・融解すると起こり得ること
1. AAVの機能的活性が低下する可能性がある
繰り返しの凍結・融解によって、一部のAAV粒子の安定性が損なわれ、機能的な活性が低下する可能性があります。
実験では、以下のような変化として現れることがあります。
- 細胞への形質導入効率が低下する
- 目的遺伝子の発現量が低下する
- 動物実験で期待した効果が得られにくくなる
ここで注意したいのは、AAVのゲノム力価と機能的活性は必ずしも同じように変化するわけではないという点です。
qPCRやddPCRで測定されるvg/mLは、主にサンプル中に存在するAAVゲノム量を反映する指標です。この値だけでは、すべてのAAV粒子が正常な形質導入能力を維持しているかどうかを判断することはできません。
そのため、凍結融解を繰り返した後に実験結果が低下した場合は、ゲノム力価だけでなく、機能的力価や実際の形質導入効率も確認することが重要です。
2. AAV粒子の凝集が増加する可能性がある
凍結・融解の過程では、温度や溶液環境が繰り返し変化します。製剤や保存条件によっては、この過程でAAV粒子同士が相互作用し、凝集が生じる可能性があります。
AAVの凝集が進むと、粒子径や粒子の均一性に変化が生じることがあります。また、細胞実験や動物への投与時のサンプル状態にも影響する可能性があります。
特に高濃度のAAVサンプルでは、凍結融解後の凝集状態に注意する必要があります。粒子径の変化、沈殿、回収率の低下などが確認された場合には、AAV粒子の凝集や製剤の安定性について検討する必要があります。
3. 遊離DNAが増加する可能性がある
通常、AAVゲノムはカプシドによって保護されています。しかし、繰り返しの凍結・融解によって一部の粒子の構造的安定性が低下すると、カプシドによって十分に保護されていないDNAや遊離DNAの割合が増加する可能性があります。
この場合、サンプル全体のゲノム力価が大きく低下していなくても、AAV粒子の状態が変化している可能性があります。
そのため、凍結融解後に総ゲノム力価と機能的な実験結果が一致しない場合には、遊離DNAやカプシドの完全性など、追加の品質評価を行うことで原因を特定しやすくなります。
4. 実験結果の再現性に影響する可能性がある
研究現場で特に注意したいのが、同じAAVロットでも使用するタイミングによってサンプルの状態が変化する可能性があることです。
例えば、同じロットのAAVを最初に使用したときには良好な形質導入結果が得られたにもかかわらず、何度も凍結・融解した後のサンプルでは効率が低下する場合があります。
凍結融解の履歴を記録していないと、細胞の状態、MOI、実験条件、AAV製造ロットなど、別の要因による変化と誤って判断する可能性があります。
複数回の細胞実験や動物実験に使用するAAVについては、サンプルごとの凍結融解回数を管理しておくことが重要です。
なぜAAVによって凍結融解への耐性が異なるのか?
すべてのAAVが同じ凍結融解安定性を示すわけではありません。
AAVの血清型だけでなく、ウイルス濃度、バッファー組成、pH、安定化剤、界面活性剤、保存条件など、さまざまな要因が安定性に影響します。
また、適切な製剤設計によって、凍結・融解時に生じる粒子の凝集や容器表面への非特異的な吸着を抑えられる場合もあります。
そのため、すべてのAAVに対して「○回以上凍結融解したら使用できない」という一律の基準を設定することは適切ではありません。
特定のAAV製品について安定性を評価する場合は、実際の製剤を用いた安定性試験を行い、ゲノム力価、粒子状態、機能的活性などを総合的に評価することが重要です。
AAVは何回凍結融解すると使用できなくなる?
この点についても、すべてのAAVに共通する明確な回数を設定することはできません。
AAVの種類や製剤によっては、複数回の凍結融解後も主要な品質特性が比較的安定している場合があります。一方、特定の血清型、低濃度のサンプル、または凍結融解に対する安定性が十分に確保されていない製剤では、繰り返しの温度変化によって機能的活性がより大きく低下する可能性があります。
したがって、単純に「3回以上」「5回以上」などの回数だけで使用可否を判断するのではなく、可能であれば対象となるAAV製品の安定性データや実際の試験結果に基づいて判断することが望まれます。
すでに複数回の凍結融解を行ったAAVについても、凍結融解回数だけを理由に廃棄するのではなく、必要な品質試験や機能試験によって状態を確認することが適切です。
AAVの繰り返し凍結融解を減らすには?
実験室で実施しやすい方法は、AAVを1回の実験で使用する量に合わせて小分けして保存することです。
複数回の細胞実験や動物実験に使用する予定がある場合、AAV全量を1本のチューブに保存して毎回解凍するよりも、1回の使用量に合わせて複数のチューブに分注しておくほうが、繰り返しの凍結融解を避けやすくなります。
基本的な考え方は以下のとおりです。
AAVの製造・精製 → 使用量に応じて小分け → 低温保存 → 必要なチューブのみ解凍 → 実験に使用
このように管理することで、同じAAVサンプルを何度も凍結・融解する状況を減らすことができます。
また、使用時には不必要に室温で長時間放置したり、短時間に何度も温度を変化させたりすることも避けることが望まれます。解凍後のAAVの取り扱いや再保存については、使用する製品の保管条件やメーカーの推奨条件も確認してください。
凍結融解を繰り返したAAVでは何を確認すべき?
AAVの安定性に問題が疑われる場合は、実験目的や必要な品質レベルに応じて適切な分析項目を選択します。
代表的な評価項目には以下があります。
特に重要なのは、ゲノム力価と機能的活性を組み合わせて評価することです。
例えば、凍結融解を繰り返した後もvg/mLがほとんど変化していないにもかかわらず、細胞への形質導入効率や目的遺伝子の発現量が低下している場合、「AAVの品質に問題はない」と単純に判断することはできません。
まとめ
AAVは比較的安定性の高いウイルスベクターですが、繰り返しの凍結・融解による影響を完全に無視することはできません。AAVの血清型や製剤条件によっては、機能的活性の低下、粒子の凝集、遊離DNAの増加、実験再現性への影響などが生じる可能性があります。
一方で、これらの影響はすべてのAAVで同じように現れるわけではありません。ウイルスの血清型、濃度、バッファー組成、製剤条件、保存方法などによって結果は異なります。
そのため、AAVを複数回の実験に使用する場合は、1回の使用量に合わせて小分けし、繰り返しの凍結融解をできるだけ避けることが基本的な対策となります。
すでに何度も凍結・融解したAAVについては、凍結融解回数だけで使用可否を判断するのではなく、ゲノム力価、機能的活性、粒子の凝集状態などを総合的に評価することが重要です。
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PackGeneについて
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